実際いくら?IT導入2社の費用感と効果

「うちも似たようなことをしているな」――請求書を手作業で作り、売上の集計はExcelと手書き伝票が入り混じっている。忙しい時期になると、代表自ら夜遅くや休日に出社して事務作業を片付けている。専任のIT担当者がいない中小企業では、こうした状態がめずらしくない。

では実際に、こうした状態からITツールを導入した会社は、何にいくらくらい使い、何がどう変わったのか。この記事では、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する「デジタル化・AI導入補助金2026」事務局サイトで公開されている実名の事例から、運輸業と介護業の2社を取り上げる。

なお、この記事では「何がどう変わったか」という結果側に焦点を当てる。補助金の申請手続き(IDの取得や交付決定前発注の禁止など)については、別記事「人が雇えないなら、AIに頼む」補助金で失敗しない4つの確認で扱っているので、そちらを参照してほしい。

事例1:運輸会社が、手書き伝票とハンコの請求書から抜け出した話

導入前の状況

宮城県南三陸町の有限会社山藤運輸(従業員43名の運送会社、設立1988年)は、売上・入金・請求の管理をExcelや手書き伝票で行っていた(IT導入補助金2020 活用事例:有限会社山藤運輸|デジタル化・AI導入補助金2026 事務局サイト、確認日:2026-07-04)。請求書は紙にハンコを押して発行しており、ペーパーレス化が進んでいなかった。過去の売上実績もデジタル化されておらず、確認するたびに時間がかかっていたという。

事務スタッフの労働時間が増え続けていたという記述からは、専任の情報システム担当を置けない中小企業に共通する「事務作業がじわじわと人の時間を圧迫していく」状況がうかがえる。

導入した機能

同社が導入したのは、クラウド型の販売・請求管理システムである。納品書・請求書の発行、受注・売上・入金の管理、発注・仕入・支払、在庫管理までを一つのシステムでまとめて扱えるようにするものだ。当時の制度名は「IT導入補助金2020」(通常枠・A類型)で、現行の「デジタル化・AI導入補助金2026」とは名称も枠組みが異なる点には注意しておきたい。

費用感の目安

一次情報には、この会社が実際に自己負担した金額は記載されていない。したがって「〇〇円で導入できた」と断定することはできないが、現行制度の枠組みを使って目安を試算することはできる。

現行の「デジタル化・AI導入補助金2026」通常枠では、次のような補助率・補助額が定められている(通常枠|デジタル化・AI導入補助金2026 事務局サイト、確認日:2026-07-04)。

  • 補助率:1/2以内(一定の賃上げ要件を満たす場合は2/3以内に引き上げ)
  • 補助額:対応する業務プロセスが1〜3個のソフトウェアで5万円以上150万円未満、4個以上で150万円以上450万円以下

山藤運輸が導入したのは「販売・請求管理」という1つの業務機能を中心にしたシステムに近く、現行制度に当てはめれば、比較的低いプロセス数帯(5万円〜150万円未満の補助額区分)に相当する可能性が高いと考えられる。仮にこの区分の上限に近い金額のシステムを導入し、補助率1/2で試算すると、自己負担分はおおよそ導入費用の半分程度になりうる、という程度の目安にとどめておきたい。当時(2020年)の制度と現行制度は枠組みが異なるため、この試算をそのまま「山藤運輸が実際に支払った金額」と読み替えないよう注意してほしい。

導入後の効果

一次情報には、次のような変化が明記されている。

  • 売上集計の処理時間が30%以上短縮された(一次情報の見出し表現)
  • 月次・年次の売上・入金管理、請求書発行を一つのシステムで一元管理できるようになった
  • 過去数年分の数値が1画面で確認でき、売上戦略を立てやすくなった
  • 手書き帳簿が電子化され、請求書のフォーマットが統一、押印も電子印に置き換わった
  • 手作業に由来する計算ミスや誤請求が減った

同社からは「他の業務(労務管理や社員教育など)のIT化を進める自信がついた」というコメントも寄せられている。ただし、この30%という数字はあくまで山藤運輸の事例における結果であり、同じシステムを導入すれば誰でも同じ削減率になるというものではない。自社の作業がどれだけシステム化されていないかによって、効果の出方は変わってくる。

事例2:介護事業者が「価格面で見送っていた」導入に踏み切った話

導入前の状況

富山県入善町の株式会社ささや木(介護業、従業員35名、売上高約1億7,000万円)は、看護小規模多機能型居宅介護やデイサービス、訪問介護など複数の介護サービスを運営している。代表は、ケアプランの作成や介護給付費の請求作業の時間を確保するため、夜間や休日に出社して業務をこなす状況が続いていた(IT導入補助金2021 活用事例:株式会社ささや木|デジタル化・AI導入補助金2026 事務局サイト、確認日:2026-07-04)。

「場所を選ばずどこでも業務ができる」環境を作りたいと考え、数年前からクラウド型の介護業務支援ソフトの導入を検討していたが、価格面で「厳しい」と判断し、見送っていたという。過去にITツールの導入を検討して踏み切れなかった経験がある経営者には、覚えのある感覚かもしれない。

導入した機能

同社が導入したのは、クラウド型の介護記録・業務支援システムである。ケアプランの作成や介護記録の入力、介護給付費の請求といった業務を、場所を問わず行えるようにするものだ。導入の決め手になったのは、IT導入支援を担う事業者から「クラウド型のシステムも補助金の対象になる」というアドバイスを受け、コスト面の不安が解消されたことだったと記録されている。申請したのは当時の「IT導入補助金2021」の特別枠(C類型-1、テレワーク対応を目的とした枠)である。

費用感の目安

この事例も、自己負担した具体的な金額は一次情報に記載がない。ただし「価格面で厳しいと判断し、数年間見送っていた」という記述から、補助金の活用によって自己負担が抑えられたことが導入の後押しになったことは読み取れる。

注意したいのは、ささや木が使った「特別枠(C類型-1)」は、現行の「デジタル化・AI導入補助金2026」には存在しない枠だという点だ。当時はテレワーク対応を後押しする目的の専用枠があったが、現行制度でこれに最も近いのは通常枠になる。複数の業務(記録・請求・情報共有など)をまとめて扱うシステムであれば、現行制度では4プロセス以上の区分(補助額150万円以上450万円以下)に該当する可能性がある。補助率は事例1と同じく1/2以内(賃上げ要件を満たす場合は2/3以内)である(出典は事例1と同じ、通常枠|デジタル化・AI導入補助金2026 事務局サイト、確認日:2026-07-04)。

繰り返しになるが、この補助率・補助額はあくまで現行制度の数字であり、ささや木が2021年当時に実際に受け取った金額そのものではない。「当時とは違う枠組みで、現行制度に置き換えるとこの程度の幅になりうる」という目安として捉えてほしい。

導入後の効果

一次情報には、数値ではなく状態の変化として次のような効果が記されている。

  • クラウド化により、場所を問わず業務が行えるようになった
  • 短時間勤務など、従業員が希望する勤務形態に応えられるようになり、人材確保にもつながった
  • データがクラウド上に保存されるようになり、災害などが発生しても業務を継続しやすい体制になった

事務局の見出しでは「クラウド化で柔軟な働き方が実現し、業務の停滞や人手不足を解消」と紹介されている。山藤運輸のような処理時間の削減率とは異なり、ここでの効果は「働き方の選択肢が増え、それが人材の確保につながった」という状態の変化である。介護業界に限らず、人手不足に悩む業種であれば共感しやすい変化ではないだろうか。

2社を並べて見える予算感

2つの事例を並べると、次のようなことが見えてくる。

  • どちらも、業種特有の特殊なシステムではなく「売上・請求管理」「記録・請求管理」という、多くの業種に共通する事務作業を効率化するシステムを選んでいる
  • 自己負担額そのものは非公開だが、現行の「デジタル化・AI導入補助金2026」通常枠に当てはめると、対応する業務の幅(プロセス数)によって補助額は5万円〜450万円の範囲で段階的に変わる。自社が検討しているシステムがどの区分に近いかを、支援事業者や公式サイトで確認するところから予算感がつかめる
  • 効果の出方は「処理時間の短縮」という数字で表れる場合もあれば、「働き方の選択肢が増え、人材確保につながった」という状態の変化で表れる場合もある。数字が出ない=効果がないわけではない

補助金の申請手続き自体(gBizIDの取得や交付決定前の発注禁止など)は、この記事では扱っていない。実際に申請を検討する段階になったら、別記事「人が雇えないなら、AIに頼む」補助金で失敗しない4つの確認で手順を確認してほしい。

まとめ・CTA

「実際いくらかかるのか分からない」という不安は、専任のIT担当者がいない中小企業ほど大きい。今回取り上げた2社は、金額こそ非公開だが、「どんな課題があって、どんな機能を導入し、何が変わったか」という流れは公開情報として確認できる。

まずは自社の「手作業で時間を取られている業務」を一つ書き出し、それが売上・請求管理に近いのか、記録・情報共有に近いのかを整理してみることから始めてみてほしい。そのうえで、顧問の税理士や取引のある金融機関の担当者に相談すれば、自社にとっての予算感や補助金の使い道について、より具体的な話ができるはずだ。


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